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シャティン競馬場(沙田馬場)は、香港にある2つの競馬場のうちのひとつで、九龍半島新界エリアの沙田(シャティン)区にある。もともと入り組んでいた沿岸の一部を埋め立てた土地に建設された。開場は1978年と、140年を超える香港ジョッキークラブの歴史から考えるとまだ日は浅いが、2つの観覧スタンドを備え、競馬場全体で10万人まで収容が可能。馬場内はペンフォード公園として一般市民に開放されている。ジャニュアリーカップ(G3・ハッピーバレー競馬場で開催)を除く、香港における全ての重賞や限定リステッド競走である4歳三冠シリーズ(香港クラシックマイル、香港クラシックカップ、香港ダービー)が行われるコース。また、2008年に開催された北京オリンピックの馬術競技が、隣接する特設会場で行われ、その後、厩舎は国際検疫厩舎として、競技場は国際厩舎の準備運動用の馬場として転用されている。
開設後、幾度かのマイナーチェンジを経て、競走に用いられる現在のコースは楕円型の右回りで、1周1,899メートル、直線距離430メートル、幅員30.5メートル(Aコース使用時。仮柵使用で最小18.3メートル)の芝コースと、1周1,555メートル、直線距離365メートル、幅員22.8メートルのオールウェザーコースとなった。芝コースには2コーナーと4コーナーの各出口に合流するシュート走路がある。2コーナー入り口から3コーナーにかけて緩やかな上り坂、3コーナー過ぎからゴールにかけて緩やかな下り坂となっているほか、走路の断面はアーチ状で、3コーナーから4コーナーはコースの外側がややせり上がったバンク状になっている。スタート地点は8か所が設定されており、1,000メートルから2,400メートルの距離で開催されている。なお、ゲートから5メートル助走距離を取っている日本と異なり、タイムはゲートが開き始めた瞬間から計測されている。
多雨多湿な気候の香港で、毎年9月から7月の約10か月間、週1日ペースで開催されるため、芝の保全にはかなりの力を入れている。水はけの良さと適度な保水性は世界屈指のもの。芝コースで使用されている芝種はバミューダグラスが主なもので、毎年10月後半から11月前半に冬季用の芝へオーバーシードされる。パドックは開閉式の屋根が据え付けられており、ここでも天候への配慮がなされている。
競馬場建設と同時に交通インフラも整備され、MTR東鉄線支線の「馬場(Racecourse)」駅が直結で、交通ICカードであるオクトパスを利用して入場することが可能。2022年には東鉄線が香港島の金鐘(アドミラリティ)まで延伸し、これを利用すれば、九龍半島だけでなく香港島の繁華街中心部からも30分程度で着く。このほか、開催当日は香港の各地から臨時バスが運行。香港国際空港からも車で40分程度と非常にアクセスがいい。
シャティン競馬場が最もにぎわうのは、シーズンの初日と最終日、香港ダービー、そして旧正月の開催で、それぞれの開催日は文字通り立すいの余地もない。
2025年4月現在、1,300頭余りの香港調教馬のうち、約70パーセントがシャティン競馬場にある厩舎に在厩。残る約30パーセントが中国・広東省にあるサテライト施設である従化競馬場に在厩している。ほとんどの騎手や調教師、厩舎スタッフも敷地内の住居および周辺に居住しており、また、シャティン競馬場敷地内には診療所や、馬に関する研究所、騎手や厩舎スタッフの養成施設である競馬人材育成センター(Racing Talent Training Centre、2022年に香港騎術アカデミーから改称)などがあり、香港競馬に関するものの大半がここに集約されている。
新型コロナウイルス感染症禍で馬主を含めた観客の一切の入場を制限していた期間中に、スタンドの大規模リノベーションを実施。特に検量室付近は屋根を設けるなど、大きく様変わりした。
注記:重賞の格付け・日程等は、2024-2025年シーズンに準じた
文:土屋 真光
(2025年4月現在)
芝1,200メートルは、向正面の中ほどからスタート。12月の香港スプリント(G1)、4月のチェアマンズスプリントプライズ(G1)の2つの国際招待G1が行われるほか、G1競走では1月にセンテナリースプリントカップ(G1)が行われる。
香港スプリントやチェアマンズスプリントプライズなどで使用されるAコースは仮柵を使用せず、幅員は30.5メートルで、フルゲートは14頭となっている。向正面中ほどにあるスタート地点の外側は、運河とそれに並行するジョギングおよびサイクリングコースとなっている。競馬場はそれよりも一段高い位置にあるものの、外の風景は丸見えで、集中力を欠く馬は輪乗りの段階で注意が必要となってくる。
最初のコーナーである3コーナーまでの距離が約300メートルと短いため、序盤の攻防が非常に激しくなりやすい。また、馬格のない馬はここでもまれるので、小型馬はやや分が悪い。3コーナーに向かっては緩やかながらも上り坂で、先行馬はスピードに加えて、この坂に負けないパワーも必要になってくる。3コーナーに入ると徐々に外側がせり上がったバンク状のコースとなっており、そのため、スピードが緩むことなくコーナーを通過できる。4コーナーでは再びフラットになり、シュートコースと合流して直線へと向かう。最後の直線はゴールに向かって緩やかな下り坂で、またコース全体の断面が丸みを帯びたカマボコ状となっているため、外から伸びる馬は内に切れ込みながら加速をつけることが多い。4コーナーからゴールまでの最後の直線距離は430メートル。
2006年に香港スプリントが現在の条件となって以来、香港調教馬が15勝、日本が3勝、南アフリカが1勝。また、2016年に国際招待の国際G1となったチェアマンズスプリントプライズは、香港8勝、オーストラリア1勝(2020年、2022年は外国調教馬の出走なし)となっており、他の国際招待競走よりも圧倒的に地元馬が優勢。芝1,200メートルのレコードタイムは、2007年11月にセイクリッドキングダムがマークした1分07秒50が長く破られていなかったが、2024年11月のジョッキークラブスプリント(G2)でカーインライジングが1分07秒43を記録すると、さらに翌2025年1月に同馬がセンテナリースプリントカップ(G1)で1分07秒20を出して自ら更新した。香港スプリントで1分07秒台を計時したのは2006年のアブソリュートチャンピオン(1分07秒80)のみで、チェアマンズスプリントプライズでは1分07秒台の計時はない。ここ数年は、全体的な高速化が進んでいたが、2023-2024年シーズン以降で1分08秒を切ったのは前出のレコードの他に、同じカーインライジングが2024年10月20日にプレミアボウル(G2)で記録した1分07秒57のみ。一方で、馬場状態Yielding(稍重)で行われた2024年のチェアマンズスプリントプライズの勝ちタイムは1分09秒33で、Good(良)で行われたそれ以前5年間の平均タイムよりも約1秒遅いものだった。
チェアマンズスプリントプライズは香港短距離三冠(香港スピードシリーズ)の三戦目。シーズン後半での余力が重要となる。
注記:重賞の格付け・日程等は、2024-2025年シーズンに準じた
文:土屋 真光
(2025年4月15日現在)
香港マイル(G1)、チャンピオンズマイル(G1)の行われる芝1,600メートルは、2コーナーへと合流する引き込みコース上からスタート。この舞台では、1月の香港スチュワーズカップ(G1)と香港クラシックマイル、4月のチャンピオンズマイル、12月の香港マイルの4つのG1級競走(香港クラシックマイルは香港調教馬限定のため限定リステッド格付け)が行われる。
香港マイルやチャンピオンズマイルなどで使用されるAコースは仮柵を使用せず、幅員は30.5メートルで、フルゲートは14頭となっている。スタート地点は2コーナー奥のシュートコース。スタンドから離れている分、スタンドの騒がしさが届きにくく、いれ込みやすい馬も落ち着かせやすい。
序盤は、3コーナーに向かって上り坂の向正面を目いっぱいに使うため、縦の隊列は早く決まりやすく、それほど流れが速くはなりにくいが、緩い流れの中で細かい動きも多い。ラップで見ると、重賞クラスでは、最初の400メートルが24秒台中盤で、3コーナーからバンク状のコーナーを抜けて4コーナーへ入る次の400メートル-400メートルがそれぞれ23秒台前半、ゴールに向かって緩やかな下り坂となる最後の400メートルが22秒台中盤となっている。コース全体の断面が丸みを帯びたカマボコ状となっているため、外から伸びる馬は内に切れ込みながら加速をつけることが多い。
香港マイルが国際G1に昇格した2000年以降の25回で、香港調教馬が19勝、日本が4勝、UAEとニュージーランドが各1勝(イギリスとUAEに拠点のあるS.ビン・スルール調教師の管理馬は、UAE調教扱いとした)。2015年にモーリスが勝利するまでは、香港馬が9連勝。また、2007年に国際G1となったチャンピオンズマイルは、18回行われたうち、香港16勝、日本と南アフリカが各1勝(2020年、2022年は外国調教馬の出走なし)を挙げている。レコードタイムは、2021年7月にプレシャスシップが1分32秒24を叩きだし、ビューティージェネレーションが持っていたコースレコードを0秒4更新。1分32秒台は珍しくなくなっており、今年の香港マイルの前哨戦ジョッキークラブマイルでも1分32秒8が計時されたが、香港マイル、チャンピオンズマイルともに1分33秒から34秒台の決着が多く、香港マイルで1分33秒を切ったのは2008年のグッドババによる1分32秒71のみとなっている。一方で、馬場状態Yielding(稍重)で行われた2024年のチャンピオンズマイルの勝ちタイムは1分34秒52で、Good(良)ないしGood to Firm(良)で行われたそれ以前5年間の平均タイムよりも約1秒25遅いものだった。
香港マイルの連覇はこれまでに3例(うち1例は3連覇)、チャンピオンズマイルの連覇はこれまでに4例(うち1例は3連覇)ある。
注記:重賞の格付け・日程等は、2024-2025年シーズンに準じた
文:土屋 真光
(2025年4月15日現在)
香港カップ(G1)とクイーンエリザベスⅡ世カップ(G1)が行われる芝2,000メートルはスタンド前の発走。この2つのほか、2月の香港ゴールドカップ(G1)、3月の香港ダービーと、計4つのG1級競走(香港ダービーは香港調教馬限定のため限定リステッド格付け)が行われる。
香港カップやクイーンエリザベスⅡ世カップなどで使用されるAコースは仮柵を使用せず、最も幅員のある30.5メートルで、フルゲートは14頭となっている。スタート地点がスタンドの目の前のため、スタンドの騒がしさの影響を受けやすく、いれ込む馬は注意が必要。スタートしてから最初の1コーナーまでが短く、序盤は位置取り争いが激しい一方で、位置を取りに行く過程で折り合いを欠く馬も少なくない。特に内枠の先行馬は、前に入られることを避けるために、スタートしてすぐに馬に勢いをつけすぎてしまうこともある。
ラップで見ると、重賞クラスでは、最初の400メートルが26秒前後で、2コーナーから向正面中ほどまでの400メートル、そこから3コーナー手前までの400メートルがそれぞれ24秒台前半、そして、ここから400メートルごとに1秒程度加速していくので、後半の800メートルは芝1,600メートルとほぼ同ラップになる。コース全体の断面が丸みを帯びたカマボコ状となっているため、外から伸びる馬は内に切れ込みながら加速をつけることが多い。
香港カップが国際G1に昇格した1999年以降、香港調教馬が11勝、日本が6勝、イギリスとフランスが各3勝、UAEとアイルランドと南アフリカが各1勝(イギリスとUAEに拠点のあるS.ビン・スルール調教師の管理馬は、UAE調教馬扱いとした)。また、クイーンエリザベスⅡ世カップが国際G1に昇格した2001年以降、香港が14勝、日本が6勝、南アフリカが2勝、ドイツとイギリスが各1勝(2020年、2022年は外国調教馬の出走なし)となっている。コースレコードは1999年にジムアンドトニックがクイーンエリザベスⅡ世カップで記録した2分00秒10が長く破られていなかったが、2017-2018年シーズンに初の2分切りが達成されると、その後相次いで更新され、現在のレコードは2019年4月28日のクイーンエリザベスⅡ世カップで記録されたウインブライトの1分58秒81。香港調教馬だけのレースとしては、2022年11月20日に行われた香港ジョッキークラブカップ(G2)でロマンチックウォリアーが記録した1分59秒23がレコードタイム。同馬は2024年11月の同レースでも1分59秒70を記録した。一方で、馬場状態Yielding(稍重)で行われた2024年のクイーンエリザベスⅡ世カップの勝ちタイムは2分01秒02で、Good(良)ないしGood to Firm(良)で行われたそれ以前5年間の平均タイムよりも約0秒6遅いものだったが、前年(2023年)の勝ちタイムよりは0秒9速かった。
香港カップ、クイーンエリザベスⅡ世カップの勝ち時計はともに2分00秒から01秒台の決着になりやすいが、2022年にロマンチックウォリアーが香港カップでは史上初の2分切りとなる1分59秒70で勝利した。一方、クイーンエリザベスⅡ世カップは前出のウインブライトの1分58秒81が唯一の2分切りとなっている。
国際G1昇格以降で、香港カップの連覇は香港調教馬のカリフォルニアメモリーとロマンチックウォリアーによる2例(うち3連覇1例)で、クイーンエリザベスⅡ世カップは連覇が2例(うち3連覇1例)となっている。
注記:重賞の格付け・日程等は、2024-2025年シーズンに準じた
文:土屋 真光
(2025年4月15日現在)
香港ヴァーズ(G1)が行われる芝2,400メートルは、4コーナーへと合流する引き込みコース上からスタート。現在の香港における最長距離で、レース数も少なく、重賞は香港ヴァーズ、5月のチャンピオンズ&チャターC(G1)、その前哨戦であるクイーンマザーメモリアルC(G3)の3レースが行われるのみだ。
香港ヴァーズで使用されるAコースは仮柵を使用せず、最も幅員のある30.5メートルで、フルゲートは14頭となっている。スタートから最初のコーナーまで約500メートルあり、序盤からスローになりやすい。
ラップで見ると、序盤から1,600メートルまでは400メートルあたり24秒から25秒台で流れることが多い。ここで動く馬もいるものの、全体のラップが速くなることは少ない。しかし、3コーナーに入る残り800メートルから23秒台中盤と急激にペースが上がり、最後の400メートルは23秒台前半となる。後半の800メートルは、芝1,600メートルや芝2,000メートルとほぼ同ラップと考えていいだろう。前半がスローペースで流れて、後半1,200メートルがスプリント戦並のタイムになることもあり、この急激なラップの変化への対応力が必要で、近年はメルボルンC(G1・オーストラリア)上位馬の好走もあることから、息の長い末脚とスタミナが要求されるコースとなっている。
香港ヴァーズが国際G1となった2000年以降、フランス調教馬が8勝、イギリスと日本が各5勝、アイルランドが3勝、香港が2勝、UAEが1勝(イギリスとUAEに拠点のあるS.ビン・スルール調教師の管理馬は、UAE調教馬扱いとした)。また、牝馬が出走した際は好走が多く、2018年の2着がリスグラシュー、2019年も2着がラッキーライラックで、2021年もエベイラが3着、そして2022年にはウインマリリンが勝利し、2023年もウォームハートが3着となった。コースレコードはヴィヴァパタカが2007年6月のチャンピオンズ&チャターCで記録した2分24秒60で、グローリーヴェイズが勝利した2019年の香港ヴァーズではこれに次ぐ2分24秒77が記録された。また、2024年5月のG3クイーンマザーメモリアルC、G1チャンピオンズ&チャターCでは相次いで2分25秒台での決着となった。
香港ヴァーズの国際G1昇格以降での連覇は1例のみで、連覇以外での2勝は2例ある。
注記:重賞の格付け・日程等は、2024-2025年シーズンに準じた
文:土屋 真光
(2024年11月現在)