東京優駿（日本ダービー）（GⅠ）ではエフフォーリアが断然人気に支持された。ここまで4戦4勝、うち東京競馬場では2勝を挙げ、皐月賞では後続を3馬身突き放している。単勝オッズ1.7倍にも納得の大本命だ。そしてエフフォーリアは、確かに堂々の走りを披露する。だが、逆転の末脚を閃かせた存在がいた。シャフリヤールである。

共同通信杯ではエフフォーリアに敗れた（3着）ものの、続く毎日杯をコースレコードで制したシャフリヤール。鞍上・福永祐一騎手は「簡単に倒せる相手ではないけれど、この馬のポテンシャルなら戦える」と信じていたという。

ただし楽なレースではなかった。「インに押し込められ、外へ持ち出そうとしてまた内に戻すなど、馬に負担をかけてしまった」と福永騎手は道中を振り返る。しかし、そこで「ならば極限まで脚を溜めよう」と覚悟を決めたことが、最後に生きることとなる。

直線。牝馬の身で果敢に挑戦してきたサトノレイナスが、早め進出から先頭をうかがう。それまで馬群の内で我慢していたエフフォーリアも、馬場の真ん中へと持ち出されてスパート、坂を上りながらスピードを上げ、残り200メートルの地点では完全に抜け出した。

これを急追したのがシャフリヤールだ。直線でも、いったんは外、そこから内というコース取りを強いられたが、「進路を確保してからは素晴らしい瞬発力を見せてくれた」と福永騎手が語った通り、鋭い切れ味を繰り出す。そして、エフフォーリアに内から並びかけ、ハナ差だけ交わしてのゴール。まさしく極限まで蓄えられた爆発的な末脚で、無敗の二冠達成を阻み、世代の頂点へと駆け上がったのである。

あえて皐月賞はパスし、大目標としていた日本ダービーへ直行という臨戦過程でつかんだ栄冠。そのステップに込められた覚悟もまた、シャフリヤールの力走につながったのだろう。今後も“偉大な王”という馬名に相応しい、鮮やかな走りに期待したいところである。

（谷川　善久）