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数々の名馬を管理してきた元調教師・藤沢和雄が今年の注目ポイントを解説!トライアルレースの開催が1週早くなったことによる影響は…?
無傷の2歳王者クロワデュノールが皐月賞で初めて敗れ、ダービーの行方はにわかに混とんとしてきました。ただ、負けたといっても本命馬らしい「堂々とした競馬」をした結果の2着。馬群がゴチャついてスムーズさを欠く場面もありましたし、改めて「強い馬だな」と思いました。ミュージアムマイルの勝ちっぷりも鮮やかでしたが、こちらは比較的「上手な競馬」をした印象。勝負付けが済んだとは言えず、それは他の上位馬にもあてはまります。力が拮抗しているうえ、若い馬は急速に成長するこの時期、みんな虎視眈々と逆転を狙っているはずです。
一方の別路線組は今年から、トライアル(青葉賞、プリンシパルS)と本番の間隔が1週間長くなりました。疲労回復に充てられる期間が延びたのは非常に大きなポイントになりそうです。毎日杯を制したファンダムに騎乗予定の北村君(宏司騎手)は私のところにいた騎手で、個人的にも頑張ってほしい。とはいえ別路線組を客観的に眺めれば、2歳時からGTに使われてきた馬とは戦ってきた相手が違うことも確か。私も青葉賞をステップに何度もダービーに挑戦させてもらいましたが、そのたびに皐月賞組に跳ね返されました。そんな自分の経験を踏まえても、いわゆる王道路線を歩んできた馬たちの牙城はやっぱり高いように映ります。
しかしもちろん、別路線組がノーチャンスというわけではありません。例年に負けず劣らず多彩なメンバーがそろった今年も、きっとファンの皆さんに喜んでもらえる“いいダービー”になる。そう思っています。
研修先のイギリスから帰国して日本の厩舎に入った後、私は調教助手として2頭のダービー馬(1981年カツトップエース、1984年シンボリルドルフ)に関わらせてもらいました。それだけにダービーを「遠い存在」とは感じていなかったのですが、とんでもない勘違い(笑)。3歳の春に東京の2400メートルをしっかり走れるのは実は凄いことで、そういう丈夫な馬はざらにはいない。調教師になってから初めてそのことに気が付きました。
使える馬がいなくて見向きもしなかった時期もありましたし、「これなら」と思った馬でもなかなか勝てなかった。そうしているうちにたちまち定年が近づいてきて、みんなに「最後のチャンスじゃないか」とあおられた馬。それがレイデオロでした。なかなか勝てなかったダービーを勝たせてもらい、もちろん私も嬉しかったのですが、周囲のみんなは「よかったよかった」と私以上に喜んでくれて。あんな体験は他にありません。ダービーの“凄さ”はそんなところにも感じましたね。
取材日:2025年5月9日(金)
取材・構成:石田敏徳藤沢 和雄
1951年9月22日生まれ。JRAの調教師として歴代2位となる通算1,570勝をあげたほか、年間最多勝利を12回記録。JRA通算9,113戦1,570勝(うち重賞126勝)、日本ダービーは2017年にレイデオロで制す。