世界での戦いエルコンドルパサーなど2度の凱旋門賞2着

アメリカの競馬はすべてが合理的で、憧れていました

蛯名 正義 元騎手(現調教師)Masayoshi Ebina

1969年生まれ。競馬学校を第3期生として卒業、同期には武豊らがいる。1995年、フジヤマケンザンのG2香港国際カップで36年ぶりの日本馬による海外重賞制覇を達成。1999年、フランスに長期滞在していたエルコンドルパサーでG1サンクルー大賞を勝ち、G1凱旋門賞で2着。2000年夏から秋にかけては、自身がアメリカ東海岸への長期遠征を行った。その後も凱旋門賞にはマンハッタンカフェ(2002年13着)とナカヤマフェスタ(2010年2着、2011年11着)で騎乗。通算4度騎乗している。

  • 第1回ジャパンカップで受けた衝撃

    僕が騎手を志したのは小学6年生くらいの頃ですが、当時は「世界」のことなんてまったく意識にありませんでした。世間的にも競馬のイメージはまだあまり良くなくて、僕も初めてテレビで見た有馬記念の記憶は、タバコの煙がもくもくしてるなあ、ですから。世界どころじゃないですよね。

    第1回ジャパンカップ(1981年)は、僕が中学1年生の頃だったかな、たまたま東京競馬場で父親といっしょに見ていたんです。日本の馬がまったく歯が立たずに負けて、これはとんでもないな、勝つのは無理だ、何十年やってもだめだろうと思いましたよ。憧れるという以前の問題でした。でも、このメアジードーツとフロストキングの馬券、うちの父親が当てていたんです。今考えると、よく当たったな、何を根拠に買ったんだろうと不思議になります(笑)。

  • 競馬学校時代にアメリカの競馬に憧れる

    競馬学校に入ってからは、アメリカの競馬に興味を持って、ビデオをよく見ていました。今は海外の映像なんてネットでいくらでも見られますけど、あの頃は「レーシングワールド」っていう毎月1本届くビデオを楽しみにしていました。ビデオテープですよ(笑)。

    最初に好きになった騎手はアンヘル・コルデロ・ジュニア(プエルトリコ人として初めてアメリカのクラシック三冠をすべて制覇、1988年にアメリカ競馬殿堂入り)。かっこよかったですねえ。じつは後に僕がニューヨークを拠点に騎乗した時には彼はエージェントをやっていて、家にも遊びに行かせてもらったりしたんです。

    アメリカの競馬は魅せる競馬というか、エンターテインメント性が高くて憧れました。すべてが合理的で、ジョッキーもいかにも「プロ」として仕事をしている感じがいいですよね。その頃からずっと、一度は行ってみたいなと思っていました。

  • 自分にとって大きな意味を持ったエルコンドルパサーの経験

    1999年 凱旋門賞 エルコンドルパサー

    1999年 凱旋門賞 エルコンドルパサー

    エルコンドルパサーのサンクルー大賞勝ちと凱旋門賞の2着は、自分にとって大きな意味を持つ経験になりました。その遠征では、全部で4回レースに乗ったけど、追い切りも含めてその倍は僕もフランスに行きましたし、自分も滞在していたようなものでしたからね。馬自身も最後はフランスの馬みたいになって、現地の人たちにも応援してもらっていました。

    フランスでは調教から何から、最初はすべて手探りでした。追い切りも、ハロン棒も何もないところでやるわけで、最初のイスパーン賞(2着)の時なんていったいどうしたらいいのか、スタッフみんなで話し合って工夫したものです。

    思い出すのは、メゾンラフィットという小さな競馬場でレースに乗った時のこと。アマチュア騎手のレースがあって、そのレースに裁決委員が乗っているんですよ(笑)。日本も主催者やファンやメディア、みんながこうやって馬に乗ることを知っていたら、競馬はもっと深い文化になれるのかな、なんて思いました。

  • 夢にまで見たアメリカ東海岸への長期遠征

    2000年にアメリカに長期滞在で乗りに行くことができたのは、やっぱりその前年のエルコンドルパサーでの活躍が大きかったみたいです。ビザがすごくおりにくい時期だったけど、普通ならなかなか取れないO-1ビザというのがもらえましたから。

    大げさではなく夢にまで見た、一度は行ってみたいとデビュー前から思っていたアメリカ東海岸の競馬で乗ったあの遠征は、僕にとって非常に有意義なものでした。家族も半年くらい一緒に行ったんですが、すごく充実していましたし。それにしても、小さな子供がすぐに英語がペラペラになったのは驚きました。子供の吸収力ってすごいですね。

  • 凱旋門賞への想い

    凱旋門賞には全部で4回乗っていますが、2回目、マンハッタンカフェで行ったときにロンシャン競馬場を見て、ああ、またここに戻ってくることができたんだと思ったんです。またここで乗れるんだ、と。あの感覚はなんだか忘れられないですね。

    何度も乗っているので、ロンシャンの2400mはもう細かいところまでわかっています。よくこのコースは難しいって言われますけど、じつは僕、それを聞くたびに、いったい何が難しいんだろうって思うんですよね。勝ってないから偉そうなことは言えないんですけど。

    凱旋門賞は、自分が勝てればいちばんいいですけど、誰でもいいからいつか勝てるといいなと思います。個人的には、騎手も含めてすべて日本人のスタッフで勝ってくれるとすごくうれしいですね。僕が香港国際カップで何十年ぶりかに日本馬の海外重賞制覇を達成したフジヤマケンザンも、いかにも純日本血統という感じの馬で、そういう馬で勝てたことがすごく誇らしかったんです。それでこそ日本の馬の勝利、という気がします。

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