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我ら競馬調査隊
〜春の牝馬は難しい?〜

タカイ隊員「春のGIシリーズもたけなわだというのに、隊長はどうしてそんなに浮かない顔をしているんですか?」
イシダ隊長「今週はヴィクトリアマイル、来週はオークスだろ。牝馬限定のレースってなぜか昔から相性が悪いんだよね」
タ「さすがは身を固める気配さえ、微塵も感じられない41歳の独身男。相性が悪いのは色々な意味で、なにも牝馬限定のレースに限らないのでは?」
イ「ほっとけ! ワシはあくまで“牝馬のレースは難しい”という話をしておるのじゃ」
タ「こりゃまた失礼。確かに昨年のヴィクトリアマイルでは200万馬券が、先の桜花賞では700万円なんて高配当が飛び出したように、牝馬のレースはときどき、訳の分からない荒れ方をしますよね」
イ「そのうえ“春の牝馬は難しい”と昔からよくいわれる通り、特にこの時期は波乱の決着が目立つような気がするな。そのかわり、一発当てればデカいんだけど」
タ「いいっすねえ〜、そのポジティヴ・シンキング。したらば今回は“春の牝馬は難しい”という定説について色々と検証してみましょう」

●牡馬と牝馬はどう違う?

 今回の調査で指南役をお願いしたのは伊藤雄二さん。改めて紹介するまでもないが昨年の春に定年を迎えるまで、マックスビューティ(桜花賞、オークス)にシャダイカグラ(桜花賞)、エアグルーヴ(オークス、天皇賞・秋)にファインモーション(秋華賞、エリザベス女王杯)などなど、数々の名牝を手掛けた実績を持つ伯楽だ。
 さて、話の手順としてはまず、そもそもの前提となる“牝馬は難しい”という定説についてを検証しておく必要があるだろう。巷間、よくいわれる通り、本当に牝馬は難しいものなのか。あるいは、牡馬と対比したときの牝馬にはいったいどんな“難しさ”が指摘できるのだろうか?
「こちらが振るう微妙な匙加減に対して、敏感に反応するのが牝馬なんです。馬の気分を見て、カイバや調教をちょっぴり加減するだけで、結果が大きく違ってくる。たとえば牡馬の場合はカイバをグンと食わせこんで、ビュッと強い調教をやっていればある程度仕上がってくるものですが、牝馬でそれをやるとピークを過ぎてしまったり、機嫌を損ねてしまったりするんです」
 もちろん個体差はあるとしても、概してオートマチック的な飼養管理と調教で仕上がる牡馬に対し、牝馬の場合はもっと繊細な心配りが必要になるというわけだ。現役時代の伊藤さんが調教の前後に、ポケットに忍ばせておいたニンジンを与えるときの反応を見ながら「馬の気持ちを把握するよう努めていた」のは有名な話。それを踏まえたうえで組む調教メニューについても、臨機応変に対応していたという。
「牝馬の場合はとりわけ、馬の気持ちを尊重してやることが大切になります。馬が“今日はあまり走りたくない”と思っているときに強いトレーニングをすれば、馬の気持ちを壊してしまうことになりかねない。だからウチの厩舎では、事前に細かい指示は出さないようにしていました。ある程度のメニューだけ組み立てておき、最後の数百メートルをどう追うかは乗り手の感触に任せていたんです」
 大雑把な心構えで接していれば、機嫌を損ねて取り付く島もなくなってしまう。そんな状況に陥った牝馬が、レースで持てる力を発揮するのが難しくなるのは明らか。人馬が良好な関係を築きつつ、レースへ立ち向かっていくためには、スタッフも含めた全員が細やかに心を配りながら馬に接する必要があるのだ。
「難しいとは思わなかった。牡馬にも増してやり甲斐、腕の振るい甲斐があるので僕は牝馬を管理するのが好きだったですね」と振り返る伊藤さんだが、それは“牝馬の達人”と異名をとった伯楽だからこそいえる台詞。人間の女性に負けず劣らず(?)、やっぱり「牝馬は難しい」といえそうだ。

●恋の季節、歯替わりの季節

 お次は「春の牝馬は難しい」という定説について。ただでさえ難しいとされる牝馬が、この時期になおさら謎めいた存在となるのは、牝馬にとって春先は恋の季節にあたるからだ。獣医学的には発情、厩舎用語では「フケ」と呼ばれる状態に陥った牝馬が、レースで持てる力を発揮できないまま敗れる例があることはよく知られている。
 しかし獣医学の世界では『馬が全力疾走するときの運動能力にフケは悪影響を及ぼさない』との研究結果も報告されている。要は発情した状態のままでも“全力疾走できるかどうか”がポイントとなるわけで、伊藤さんによるとそれはケースバイケースなのだという。
「フケが来ていても、レースとなれば関係なく走ってくれる馬がいれば、その一方では集中力を欠いてしまってまったく力を出せない馬もいます」
 一概にダメとは言い切れないからこそ、私たちばかりではなく厩舎関係者にとっても、フケは悩ましい存在なのである。
 ただし最近は「フケに悩まされるケースは減っている」とか。ホルモン剤の投与により、発情の時期をある程度コントロールできるようになったこと、またそもそも、発情の状態に陥る現役馬自体が昔に比べて減ってきたことなどが、その背景には指摘できる。そんなフケに対し、厩舎関係者を今でもなお悩ませている春先特有の症状が“歯替わり”だという。
「3歳の春先は新しい歯が生えてくる季節。すると古い歯がグラグラして、しっかりモノを噛めなくなるためカイ食いが落ちてしまう。カイバを食べてくれなければ調教もセーブせざるを得ません。もともと、牡馬に比べて食の細い馬が多い牝馬の場合は、なおさら苦労するというわけです」
大波乱となった昨年のヴィクトリアマイル。レース予想をするうえで、何よりもまず馬を“よく知る”ことが大切だと、伊藤さんはいう。
 フケに歯替わり。この時期の牝馬──特に3歳牝馬──が難しいといわれるのは、無理のないことなのだ。
 もっとも伊藤さんは、この時期の牝馬の難しさが“言い訳”に使われている一面もあると指摘する。
「陣営はしっかりとした手応えをつかんでレースへ臨んでいたのに、ファンの側がそれを見抜けていなかった。波乱となったレースではそんなケースも多いように思いますよ」
 確かに筆者自身、「牝馬のレースは難しいからなあ」という言い訳を口にした経験は数知れず。ならば私たちはこの時期の牝馬限定戦にどんな心構えで臨むべきなのか?
「牝馬のレースには限りませんが、まずは1頭1頭の馬を“よく知る”ことでしょうね」
 数々の名馬、名牝を手掛けてきた伯楽は、そういって笑うのだった。
(石田敏徳)
 
2008.5.18 レーシングプログラム掲載


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