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アイルランド競馬の概要

アイルランド競馬の概要

イギリス、フランスと並ぶヨーロッパの競馬大国

アイルランドではすでに17世紀には主にイギリス王室の許可や後援を受ける形で競馬が盛んに行われていた記録が残されている。しかし、近代競馬の基礎が整えられ始めたのは18世紀後半のこと。基本的にはひと足先に競馬の近代化を進めており、当時アイルランドを支配していたイギリスを模倣して、その後を追う形で近代化されていったもので、アイルランドにおける競馬統括機関として長く機能したターフクラブ(前身組織から1784年頃に改名して誕生。1790年にルールも掲載されたレーシングカレンダー=競走成績書を発刊)は、イギリスのジョッキークラブ(1750年創設)に倣ってその体制やルールが設けられたものだった。

19世紀に入ると平地競馬はキルデア州のカラ競馬場を中心に大きく発展。同競馬場ではイギリス王室から賞金や賞品が授与されるロイヤルプレート競走が数多く行われたほか(同様の競走は17世紀のチャールズⅡ世やジェームズⅡ世の時代から行われており、非常に重要なレースだった)、1821年には当時のイギリス国王ジョージⅣ世がカラ競馬場に来訪。現在は芝2000メートルのG3として行われているロイヤルホイップSはこの時にジョージⅣ世から黄金で装飾された鞭(ホイップ)が贈られたことを記念して創設されたレースである(現在の優勝トロフィーはウィリアムⅣ世が1830年に贈ったもの)。また1866年にはカラ競馬場に愛ダービーが創設された。

20世紀に入った1907年にはオービー(フレデリック・マッケイブ厩舎)が英ダービーに優勝。それまでにもアイルランド産馬は英ダービーやグランドナショナルなどイギリスで数多くの大レースに優勝していたが、アイルランド調教馬による英ダービー優勝はこれが初めて。アイルランドの競馬全体がイギリスに肩を並べる水準にまで上がってきたことを示した。その後、アイルランドは第一次世界大戦、イギリスとの独立戦争、アイルランド内戦、第二次世界大戦、イギリス連邦からの独立などを経験しながらも成熟。現在ではイギリス、フランスと並んで、ヨーロッパを代表する競馬大国となっている。

なお、アイルランドは障害競馬(スティープルチェイス)の発祥の地とされており、1752年にアイルランドのコークで教会の尖塔(スティープル)を目指して、障害物を飛越しながら目指した競走(チェイス)がその起源。アイルランドでは今も障害競馬が非常に盛んで、平地競馬と障害競馬(スティープルチェイス以外に、ハードル、障害馬のための平地競走であるナショナルハントフラットも含む)のレース数を比べると、1234レースと1410レースで障害競馬の方が多く、平均入場者数の比較でも障害競馬が上回るほど。パンチズタウンゴールドCやパンチズタウンチャンピオンチェイスなど12の障害G1を4月末から5月頭の5日間でまとめて行うパンチズタウン競馬場のパンチズタウンフェスティバル、それに平地と障害の混合開催ではあるが、障害のゴールウェイプレートやゴールウェイハードルをメインにして7月末から8月頭に7日間にわたって開催されるゴールウェイサマーフェスティバルは毎年10万人を超す大観衆を集めるビッグイベントとなっている。

  • アイルランド競馬イメージ写真1
  • アイルランド競馬イメージ写真2

現在、アイルランドにおける競馬は2001年に発足したホースレーシングアイルランドによって統括されており(規律及び免許部門はそれまでの平地競馬におけるターフクラブと障害競馬のアイリッシュナショナルハントスティープルチェイスコミッティーを引き継ぐ形で2018年1月に誕生したアイリッシュホースレーシングレギュラトリーボードが担当)、サラブレッドの平地及び障害競馬が行われている競馬場は全部で26を数える(イギリス領北アイルランドにあるものの、ホースレーシングアイルランドが統括するダウンロイヤル競馬場とダウンパトリック競馬場も含む数字)。

競馬は年間を通して行われているが(開催しない日もある)、平地競馬のハイシーズンとなるのは5月から9月。その中心となっているのは平地競馬専門の競馬場であるカラ競馬場で、5月の愛2000ギニー、愛1000ギニー、6月の愛ダービー、そして7月の愛オークスと3歳クラシックレースの全て(9月のG1・愛セントレジャーは3歳以上)に加え、春の重要な中距離戦であるタタソールズゴールドCなどアイルランドに全部で13ある平地のG1の内、11までが行われる。

また、レパーズタウン競馬場(平地・障害兼用)も重要な位置を占める競馬場で、残る2つの平地G1、つまりアイルランドにおける中距離王者決定戦であるアイリッシュチャンピオンSと3歳以上牝馬によるマイル戦であるメイトロンSを9月上旬から中旬の同じ日に開催している。この開催日は2日間連続(土曜・日曜)で計6つのG1レースが組まれ、アイルランド競馬のハイライトとなっているアイリッシュチャンピオンズウィークエンド開催の初日(2日目はカラ競馬場に場所を移して開催)にあたる。

アイルランドはサラブレッドの生産も非常に盛んだ。アイルランドの馬産はかつて種付け料収入が非課税とされるなど大規模な優遇措置が取られていたこともあり大きく発展。40年近く続いたその措置は2008年7月に終了したが、今でもクールモア、ゴドルフィンなどが大規模な牧場を経営しており、その生産頭数は9689頭(2017年のデータ)でアメリカ(2万900頭)、オーストラリア(1万3823頭)に続く世界第3位。ヨーロッパではナンバーワンを誇る(フランスが5460頭、イギリスが4674頭)。なお、アイルランドの種牡馬統計は、歴史的にイギリスとの関係が不可分であったことと、今も極めて密接な関係にあることから、イギリスと併せた形で今も発表されるのがスタンダードとなっている。

文:秋山 響(TPC)
(2019年9月現在)

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